皆さんは民間の救急救命士の存在をご存じですか?
「救急救命士資格は消防でしか活かせない」ずっとそう言われてきました。
しかし、救急救命士は国家資格名であり、それ自体が職業を限定するものではないのです。
近年は厚生労働省や総務省消防庁も民間救急救命士の活用に前向きになっています。
今回の記事では民間救急救命士にスポットを当て彼らがどんな存在なのかご紹介します。
・民間救急救命士って何なの?
・民間救急救命士としての働き方が知りたい?
・民間救急救命士の生の声が聞きたい。

こんにちは。民間救急救命士歴15年、元消防士のKIDです。
民間救急救命士は救命士界のパイオニア。
人とは違う道を選び、舗装された道ではなく、自分で道を切り拓く孤高の存在です。
「救急救命士資格をもっと自由に」それが私がこの15年間願い続けた想い。
この記事が皆さんに民間救急救命士を知っていただくきっかけになってくれると幸いです。
目次
民間救急救命士とは何か

民間救急救命士とは消防や自衛隊、海上保安庁など公務員以外の救急救命士のことをいいます。
広義の意味では大学や専門学校の教員救急救命士や法改正で今話題の病院救急救命士も民間救急救命士になりますね。
この記事では民間企業の救急救命士を中心に解説していきます。

民間救急救命士さんて簡単に言うと消防以外の救命士さんなんだね。
パパも民間救急救命士なの??

そうだよ。パパが民間救急救命士になった時は、消防以外の救急救命士なんて救命士じゃない。
そんな時代だったからとても苦労したけど、時代は確実に変わってきた。
今回はそれをわかりやすく説明するからね!!
民間救急救命士の誕生
救急救命士は平成3年に誕生しました。この資格誕生の際、医療を統括する厚労省と救急車を統括する消防庁双方の思惑がぶつかり合い、国家資格である救急救命士が消防でなくては活かせない資格になってしまったのです。
本来、アメリカのような消防の救急車と民間救急の救急車。この2つが競争的共存関係で救急救命士の主な働き場所になるはずでした。
ところが消防が救急搬送の民間参入を嫌い救急救命士を独自で大量に養成したため、民間企業の参入が困難となり、結果として救急救命士資格を取得していても命の現場で働けない資格者が溢れたのです。
そのことについては現神奈川県知事で救急救命士誕生の父と言われる黒岩祐治氏が証言しています。
民間救急救命士はそんな逆風の中、誕生した新しい救命士の形です。
民間救急救命士の転換期
平成27年に総務省消防庁の「救急業務のあり方に関する検討会」の中で消防機関以外の救急救命士に初めて公的なスポットが当たりました。
救急救命士は、一人でも多くの命を助けたいという志をもって専門的な教育を受け、国家試験に合格してその資格を取得しており、消防機関以外の救急救命士の有資格者に対して、そのスキルを有効に活用できる場を提供していくことにより、救命率の向上という重要な社会的な要請に応えることができる。
平成27年総務省消防庁救急業務のあり方に関する検討会報告書引用

これを受けて「日本救護救急財団」や「病院前救護統括体制認定機構」などの民間救急救命士を支援する組織が次々と立ち上がり、まだまだマイノリティな存在である民間救急救命士達のバックアップを行っています。
民間救急救命士の必要性
救急救命士資格者は毎年約2500人ずつ増加しています。
令和3年の救急救命士国家試験合格者は2596人、このうち大学、専門学校からの合格者は1507人です。
過去の統計と今後の消防の採用枠を勘案すると、この中の3~4割は消防に就職できない。
全国で約500人以上が消防以外の就職を迫られることになります。

民間救急救命士がその受け皿になることができなければ、彼ら彼女らはせっかくの国家資格を活かすことができず、全く関係ない職種に就職することになるのです。

せっかくたくさんお勉強して救命士になったのに資格を活かして働けないなんて悲しいね。

そうだね。パパの同級生や友達でも消防に就職できなかったり、消防を辞めた救命士は医療とは全く関係のない仕事をしている人も多いよ。
救急救命士資格を活かせないことは本人はもちろん救急医療の充実を願う日本中の人達にとって残念なことだと思う。
民間救急救命士の資格の活かし方

民間救急救命士を活用している主な企業を以下に示します。
・医療機関:湘南鎌倉総合病院、米盛病院等
・警備会社:セコム、ALSOK等
・役場救急:日本救急システム株式会社
・民間救急:株式会社エヌジェーシー等
・大規模集客施設・大規模イベント:東京スカイツリー、東京マラソン等
これらの企業は独自で救急救命士を採用し、学会などでも積極に取り組みを発信している民間救急救命士界のトップランナーです。
このように多くの民間救急救命士が試行錯誤しながら資格を活かして活躍しています。

民間救命士さんがいろんなところで頑張っているのがわかったよ!
民間救命士さんって消防救命士さんみたいに口の中に管を入れたり点滴はできるの?

うん。消防救命士と同じく資格を活かして医療行為ができるんだけど、それには条件があるんだ。
これからその条件を説明するね。
民間救急救命士が守るべきルール
民間救急救命士であっても消防救急救命士同様に救急救命士法を遵守する必要があります。
逆説的にいえば救急救命士法を遵守すれば消防救急救命士同様の活動が可能なのです。
以下にその条件を示します。
・救急救命処置は医師の指示下で実施する:救急救命士法第44条
・救急救命処置を行う場所の制限:救急救命士法第44条2項
・質の担保:2年間で128時間の生涯学習
救急救命処置とメディカルコントロール
医療行為は本来、医師のみに許された業です。
救急救命士が行う救急救命処置も医療行為に該当するので医師の指示下で実施する必要があります。
救急救命士は、医師の具体的な指示を受けなければ、厚生省令で 定める救急救命処置を行ってはならない。
救急救命士第44条より引用
また医師及び医療関係者との連携についても記されています。この条文が元となり後にメディカルコントロールといわれる医師が救急救命士の活動の質を担保するためのシステムが作られたのです。
救急救命士は、その業務を行うに当たっては、医師その他の医療 関係者との緊密な連携を図り、適正な医療の確保に努めなければならない。
救急救命士法第45条より引用
結果としてメディカルコントロール体制を確立することが救急救命処置を実施する条件となっています。
救急救命士処置を行う場所の制限
救急救命士が救急救命処置を行う場所は民間救急救命士であっても守らなくてはいけません。
なぜなら場所に関しても救急救命士法に明記されているからです。
救急救命士は、救急用自動車その他の重度傷病者を搬送するためのもので あって厚生省令で定めるもの(以下この項及び第五十三条第三号において 「救急用自動車等」という。)以外の場所においてその業務を行ってはな らない。ただし、病院又は診療所への搬送のため重度傷病者を救急用自動 車等に乗せるまでの間において救急救命処置を行うことが必要と認められ る場合は、この限りでない。
救急救命士法第44条2項
この場所の制限があるため、これまで病院救急救命士達は看護補助という医療行為に当たらない範囲で資格を活かせず働いてきました。
このようにあくまで救急救命処置ができるのは現場若しくは救急用自動車内に限られるのです。
令和3年10月に救急救急士法が改正施行され救急外来まで救急救命処置が実施可能な範囲が拡大されます。
救急救命士の質の担保
消防救急救命士と比較して臨床経験を積むことのできない民間救急救命士には質の担保は非常に重要。
消防救急救命士同様に2年間で128時間の生涯学習が必要となります。
病院前救護統括体制認定機構では講習を受講後試験に合格した救急救命士に民間認定を与えています。
この認定は2年ごとの更新制であり128時間の継続教育を達成すると再認定を受けることが可能。

民間救命士さんて法律をしっかり守って、その他にも勉強や実習とかたくさんやらなきゃいけないことがあるんだね。
パパは民間認定救急救命士なの??

そうだよ。消防の救命士と違って現場に出る回数がどうしても少なくなっちゃうから、活動の質を保つために継続教育は必須なんだ。
救急現場で失敗は許されないから日頃から訓練したり積極的に学会などに参加して勉強しているよ。
民間救急救命士インタビュー


民間救命士さんてみんな頑張っていてカッコイイなぁ。
パパは自分で道を切り拓いたんだね!もっとお話を聞いてみたいよ!!

パパの座右の銘は「僕の前に道はない、僕の後ろに道はできる」
諦めずにチャレンジし続けたからこそ今がある。
今回はこれから民間救命士になる人達のためにパパがインタビューに答えるよ!
- どうして民間救急救命士になったの?
- 消防の仕事は大好きでしたが、どうしても離れなくてはいけない理由ができて退職しました。経験を活かして他の消防を受験する選択肢もありましたが、自分にしかできない仕事がしたくて、当時皆無だった民間救急救命士の道に進みました。
- 民間救急救命士になって苦労した点を教えて。
- 最初はすべてが手探りでとても苦労しました。特に救急車同乗実習に行った時は消防の救命士達と同じレベルで活動しなくてはいけません。なぜなら傷病者にとっては毎日救急車に乗っている消防救急救命士も年に1週間しか救急車に乗らない民間救急救命士も関係ないからです。大きなプレッシャーの中、救急救命のプロとして活動するのは大変でしたね。
- どうやってメディカルコントロール体制を確立したの?
- これまで数年に渡り全国の学会に参加して民間救急救命士の資格の活かし方を模索してきました。
その中で知り合った民間救急救命士や民間救急救命士を支援してくれる医師と出会い情報交換をして、その結果をまとめて会社と地域の基幹病院の救命センター長の医師に説明することによって、双方の理解を得て病院と企業間のメディカルコントロール体制を確立することができました。
- 普段はどんな仕事をしているの?
- 私はサラリーマン救命士なので、普通のサラリーマンのような仕事をしながら有事に備えています。救命士の仕事としては自分達の訓練や従業員を対象とした救急講習を多く開催しています。医療系セミナーのインストラクター資格も有しているので消防救命士はもちろん医師や看護師にも定期的に技術指導を行っています。
- これから民間救急救命士を目指す方々に一言お願いします。
- 民間救急救命士は現状狭き門だと思いますが、数が少ないだけに自分がその企業のパイオニアになれる可能性があります。唯一無二の存在というのは非常にやりがいがありますよ!!是非一緒に民間救急救命士の可能性を広げていきましょう。

話してくれてありがとう。初めてパパのこれまでやってきたことがわかったよ。
僕も大きくなったら民間救命士さんみたいにやりがいのある仕事がしたいな!!
まとめ

・民間救急救命士とは消防や自衛隊等の官公庁以外の救急救命士のこと。
・省庁関係の後押しや学生のニーズがあり民間救急救命士の重要性が高まっている。
・民間救急救命士として活動するには法の遵守、メディカルコントロール体制確立、継続教育が必須。
民間救急救命士についておわかりいただけたでしょうか?
民間救急救命士は救命士界のパイオニア的存在。
今この瞬間も自分たちの力で道を切り拓くべく懸命に努力しています。
そんな孤高で崇高な精神を持つ民間救急救命士達がいることを、この記事を通して皆さんに少しでも知っていただけたらこんなに嬉しいことはありません。

救急救命士の転職に興味のある方はこちらの記事も是非ご覧ください。

救命士の資格って国家資格なのに、民間で活かせないんじゃ、おかしいですよね。もっと色んな場所で働けるような法律ならイイのに。
今、コロナワクチンの打ち手が不足してるから、救命士にも出来るように、厚生労働省は通達出したり、色々やってるみたいです。救命士は、いいように使われてるだけかも知れませんね。もっと、団結して訴えていかないと、いけませんね。
コウさん
コメントありがとうございます。
資格が誕生する過程で消防でしか使えない資格になったのは残念です・・・
ここ最近は厚生労働省が救命士を活用しようと必死ですよね。
仰るように全職域の救命士が団結して訴えていかなければ、
いいように使われてしまいそうな気がします。