皆さんは会社員をやりながら資格を活かして働く救急救命士がいることをご存じですか?
救急救命士の主な就職先である消防の使命は地域住民の生命と財産を守ること。
一方、民間企業の使命は社会に価値を提供して利益を得ることです。
この異なる使命を両立するのがサラリーマン救急救命士なのです。
・サラリーマン救急救命士ってなんなの?
・サラリーマン救急救命士ってどんな仕事をしているの?
・サラリーマン救急救命士の生の声が聞いてみたい。

こんにちは。民間救急救命士歴15年、元消防士のKIDです。
サラリーマン救急救命士は現代の二刀流。
彼らは普段会社員として働き、有事の際は救急救命士として命を守る。
企業の利益を追求しつつ安全や安心を提供するサラリーマン救急救命士。
この記事が皆さんにサラリーマン救急救命士を知っていただくきっかけになってくれると幸いです。
目次

サラリーマン救急救命士とは民間企業に勤務しながら、職場で急病や怪我人が出た場合に初期救護を担う救急救命士のことを言います。
イメージとしては火事の時に会社から火災現場に急行する消防団員さんに近いですね。
比較的危険度の高い仕事や消防救急車到着に時間がかかってしまうような遠隔地で力を発揮します。
消防庁が公表している統計によると救急車を要請して現場に到着するまで全国平均「8.7分」かかります。

心臓が止まってしまった方に対して救急車が来るまで何もしなかった場合、救命の可能性は10%を切ってしまいます。
しかし、すぐに心肺蘇生法やAEDが使用できれば救命率は劇的に向上するのです。マラソン大会で心肺停止になったランナーの救命率が高いのはまさにこのためですね。
サラリーマン救急救命士であっても救急救命士法を遵守すれば消防救命士同様の活動が可能です。


サラリーマンと救命士さんを両方やるなんて凄いな!
本当に2つともやれるの??

この2つに必要なスキルは全然違うから両立するのはとても大変。
でもその分多くの経験が積める凄く魅力的な働き方だと思うよ。
今回はサラリーマン救命士の働き方を消防救命士と比べながら紹介するからね!
サラリーマン救急救命士の守るべきルール
消防機関に所属していなくても民間企業で救急救命士の資格を活かすことは可能です。
なぜなら救急救命士法は職業を限定するものではないからです。
以下の3点を遵守することによりサラリーマンと救急救命士を両立することが可能となります。
・救急救命処置は医師の指示下で実施する:救急救命士法第44条
・救急救命処置を行う場所の制限:救急救命士法第44条2項
・救急救命処置録の記録と保管:救急救命士法第46条第1項
これらを要約すると、職場で傷病者が発生した場合に消防救急車が到着するまでの間、事前に医師と取り決めた範囲の医療行為を行い、その内容を記録し5年間保管するとなります。
現状、これらのルールをクリアできているサラリーマン救急救命士は極少数ですが、今後は消防に就職できない救急救命士が増えてくることを考えるともっとスポットライトが当たっても良い職種ですね。
消防機関以外の救急救命士が資格を活かす方法を詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

サラリーマン救急救命士に求められるスキル
消防救急救命士が救急救命スキル以外に消防士としての知識や技術が必要なように、サラリーマン救急救命士にはビジネスマンとしてのスキルが必要となります。
基本的に利益を追求しない公務員とは違い、民間企業は利益を出さなくては倒産してしまいます。
このため、いかにしてお客様に喜んでもらうか。会社に対して自身の価値を提供できるかが重要となるのです。
消防の使命:地域住民の生命と財産を守ること
企業の使命:社会に価値を提供して利益を得ること
これらのことから両者では求められるスキルが大きく違うのです。
消防救急救命士に求められるスキル
近年は消防士にも事務処理能力やITスキルが求められるようになってきましたが、地域住民の生命と財産を守ることが使命の彼らはやはり体が資本。
勤務の合間を縫ってランニングや筋力トレーニングに励む消防士達をご覧になったことがあると思います。
救急救命士であっても消防士である以上これらのスキルは必須となります。
・気力と体力:人命救助のために必要不可欠な強靱な精神力、筋力・スタミナ等の体力
・車両運転スキル:緊急走行を行う消防車・救急車などを安全、確実に操作する技能
・コミュニケーションスキル:現場で上位者の命令に従う規律、24時間勤務での人間関係構築力
サラリーマン救急救命士に求められるスキル
消防士に気力、体力が必要なようにサラリーマン救急救命士にはビジネススキルが必要になります。
これらのスキルは社会やお客様に価値を提供し利益を得るために必須のスキルです。
救急救命士でありながらビジネススキルも持ち合わせる。彼らが現代の2刀流と言われる所以ですね。
・企画提案力:会社に利益をもたらすための企画力、顧客に価値を提供するための提案力
・データ分析スキル:数字を論理的に分析し効率化やマニュアル化する技能
・プレゼンスキル:自分の提案をわかりやすく顧客や上司に伝える資料作成、発表技能

消防救命士さんとサラリーマン救命士さんじゃ必要なスキルが全然違うんだね。

パパも消防士時代は先輩達と体を鍛えたり、救急車運転の訓練をたくさんやったよ。
民間救命士になった今はビジネススキルを使うことが多くなったかな?
ここからはサラリーマン救命士の仕事を紹介していくからね。

傷病者の人命救助と企業の利益追求を両立するサラリーマン救急救命士。
2足のわらじを履く彼らのバイタリティとチャレンジスピリットは特筆するものがあります。
ここではある企業のサラリーマン救急救命士の業務を紹介します。
・傷病者発生時の救護対応
・救急救命士の知識・スキル維持
・企画提案、業務効率化、プレゼンテーション
傷病者の救護対応
民間企業が一番守らないといけないことは安全とコンプライアンス(法規)遵守です。
従業員を朝出勤した姿で家に帰すこと。これが職場を統括する管理職や監督者の責務。
不幸にも事故が起こった場合は救急救命士がすぐに駆けつけ、消防救急隊との連携や場合によってはドクターヘリを要請して全力で救命に当たります。
サラリーマン救急救命士の活動は以下のステップです。
本人や関係者から急病や事故の報告が救急救命士に入る。
救護活動に必要な人数を揃え施設内の救急車で現場に向かう。
傷病者に接触し詳細に状態を観察する。例:バイタルサイン測定(意識、呼吸、脈拍、酸素飽和度)、全身観察、問診等。
観察の結果を総合的に判断して必要があれば119番通報を行う。より重症度が高い場合はドクターヘリを要請する。
病態により必要な救急救命処置を行う。心肺停止などの場合は医師に連絡し特定行為(器具気道確保や静脈路確保)実施。
消防隊に傷病者の状態や行った処置を報告し引き継ぐ。
救急救命処置録に行った処置を記録し5年間保管する。
このように傷病者が発生した場合は、現場に駆けつけ救急救命処置を行いながら消防救急隊へ引き継ぎます。
彼らはサラリーマンでありながら人命救助のスペシャリストでもあるのです。
救急救命士が職場を守っている。このことは他の従業員達の大きな安心に繋がっています。

ドクターヘリ!?ニュースで見たことがあるよ!
お医者さんがヘリコプターで駆けつけてくれるんだよね。

そうだよ。重傷を負った人を助けるにはやっぱりお医者さんの力が必要。
救命士が怪我した人をしっかり観察して消防指令員に詳しい状況を伝えることで、いち早くドクターヘリに来てもらうことが可能なんだ。
知識・スキルの維持

サラリーマン救急救命士の最大のウイークポイントは出動機会が消防救急救命士と比較して圧倒的に少ないこと。
どんな世界でもそうですが知識や技術は経験を通して磨かれます。
病気や怪我はないに越したことはない。しかしそれでは一番大切な経験が得られない。
サラリーマン救急救命士は常にこのジレンマを抱えているのです。
活動の質の担保を図るために2年間で128時間を目標に生涯教育を実施しています。
これらの生涯教育の他にも自職場での救急訓練や従業員に対する救急講習を通して知識、スキルを維持することが大切です。
ビジネススキル
サラリーマン救急救命士の特徴として消防救急救命士よりこのビジネススキルが優れていることが上げられます。
それは企画提案、業務効率化、プレゼンテーションなどです。
傷病者の救護と合わせて会社に利益をもたらすことが必須。
これらのビジネススキルを救急救命士の業務に応用することも可能です。

業務効率化?プレゼンテーション??なんだか難しいなぁ。

文字にすると難しく感じるけど、お客さんに商品やサービスを買ってもらうためにそれらの良さをわかりやすく伝えたり、仕事をなるべく簡単に早く終わるような工夫をしているんだよ。
それを救命士の仕事に活かせば消防救命士とは違う価値を生み出せるんだ!


現代の2刀流、サラリーマン救命士さんてサムライみたいでかっこいいな!!

昔の武士は戦がない時代でもいざという時に戦えるように常に刀を手入れしていた。
サラリーマン救命士も同じく、いざという時に力を発揮できるように救命技術を磨いているんだよ。
今回は今までに様々な経験を積んできたサラリーマン救命士さんにインタビューしてみたよ。
- なぜサラリーマン救命士という道を選んだの?
- 私は救命士の専門学校を卒業してから、消防士、自衛隊員を経験し現在の職場に勤務しています。
この2つも非常にやりがいのある仕事でしたが、独特な上下関係や特殊な勤務体系にどうも水が合わず退職。そんな時に救命士を探していた今の職場にスカウトを受けました。
民間企業で救命士資格を活かせるのか不安でしたが、新しい仕事をしてみたかったのでこの世界に飛び込みました。
- 普段はどんな仕事をしているの?
- 普段はサラリーマンとして親会社から業務委託された仕事を中心行っています。
メインはお客様対応や設備の保全、車両の管理などですね。
救命士の視点で安全に対して提案したり改善することで価値を提供できていると思います。
救命士の質の維持のための訓練も月に数回行っており、指導も任されているのでとってもやりがいがありますよ。
- メディカルコントロールは確立できているの?
- はい。数年前に地元の救命センターと会社でメディカルコントロール契約を交わして救急救命士法を遵守した形で活動しています。これにより民間企業に所属しながら消防救急救命士同様に特定行為まで実施できる救命士になりました。メディカルコントロール構築の際に消防にもオブザーバで入っていただいたので、傷病者を引き継ぐ際もスムーズな連携が可能です。
- 消防救命士とサラリーマン救命士の違いを教えて?
- 消防や自衛隊は組織が体系化されているので自由度が少なく、自分のやりたいことがなかなかできないというジレンマがありましたが、民間企業は提案内容さえ良ければ採用してもらえるのでモチベーションが保ちやすいと思います。以前に自分たちの強みを本にしてはどうかと提案し、それが実現されて消防の教本にもなった時は大きな充実感を感じましたね。
また、昇進が年功序列ではないという点も自分には合っている気がします。
- これからサラリーマン救急救命士を目指す方々に一言お願いします。
- ビジネスと救命を両立することは非常に大変ですが、自分の腕一本でどこまででも上って行けるのでとっても楽しいですよ。消防や自衛隊の時には経験できなかったことも多く、人間としての視野も広がったと思います。
新卒の方はもちろん、消防に合わなかった人にも是非その経験を民間企業で発揮してもらいたいです。皆さんが思っているより企業は安全を重要視しているのできっと重宝されます。

・傷病者発生から救急隊引き継ぎまでの初動対応を担当している。
・救急救命とビジネスという異なるスキルが必要。
・仕事の自由度が高く実力主義なチャレンジングな仕事
サラリーマン救急救命士についておわかりいただけたでしょうか?
サラリーマン救急救命士は急病や事故の初動対応の他に会社員として利益も追求する現代の2刀流。
まだ数が少ないので社内の第一人者になれる可能性を秘めるブルーオーシャンな仕事です。
救急救命士の資格を活かしながら会社員として働く。令和の新たなスタンダードになるかも知れませんね!!

救急医療の技能とビジネススキルを持ち合わせるサラリーマン救急救命士。
サラリーマン救急救命士以外の資格の活かし方を知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

サラリーマン救命士を、いくさの無い時の武士に例えるのが面白かったです。消防救命士であっても、出動だけじゃ、スキルは増えていかない。日々、勉強しなきゃならないのは、ビジネス救命士も消防救命士も同じですね。
コウさん
メッセージありがとうございます。
消防救命士も救急だけやっていればいい時代ではなくなりましたね。
消防も流動性がもっとあればスキル向上に繋がる気がします。
救急救命士資格がもっと自由なものになればいいですね。