救急隊長になってしまったけど部下にちゃんと指示ができるか不安。新しい上司の活動方針が不明確でついて行っていいのか疑問を感じる。そもそも自分は人を引っ張っていくタイプではない。
救急救命士の中には、こんな悩みを持っている方は多いのではないでしょうか?
団塊の世代の退職で消防組織が一気に若返り、小規模の消防では30代で救急隊長、40代で当務隊長と経験が浅い状態でリーダーになる人が増えたこともこれらの大きな要因です。
能力主義の多い民間企業と違い基本年功序列の消防組織ではリーダーという重要な仕事は避けては通れない問題です。
この記事では人や組織を活性化させる「トップダウン型」と「サーバント型」2つのリーダーシップについて解説します。
・救急救命士に必要なリーダーシップとは
・2つのリーダーシップの活用方法
・救急救命士エピソード紹介

こんにちは。民間救急救命士歴15年、元消防士のKIDです。
現在は10人の部下を抱える中間管理職をしています。
消防のような上下の関係が強い組織では強力なリーダーシップが求められます。
しかし、近年その形が崩れてきていることも事実。
今回の記事では今注目されている2つのリーダーシップについてご紹介します。
目次

リーダーシップとは「統率力・指導力」のことを指します。
救急現場では隊員間の意思疎通が取れていなければ最善の活動はできません。隊員達を統率し、必要があれば指導することがリーダーである隊長の役割です。最近は後進を育成する指導救命士の存在も注目されていますね。
また、隊長に限らず救急救命士が専門知識を活かして隊の活動に方針を示し効果をあげたのならそれもリーダーシップです。
現代経営学の父と呼ばれるピーター・ドラッガーはリーダーシップについて次のように示しています。
リーダーシップとは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に確立することである。リーダーとは目標を定め、優先順位を決め、それを維持するものである
引用:プロフェッショナルの条件
これを救急活動に当てはめると、地域住民の生命と財産を守るという消防の使命を隊員達にわかりやすく示し、活動のゴールを明確にして傷病者の状況によって優先度を付け対応するというところでしょうか。
1つとして同じ現場のない救急活動ではリーダーの判断は非常に重要な意味を持ってきます。

リーダーシップか!僕の小学校の生徒会長さんはまさにリーダー。
みんなのことを考えて優しく引っ張ってくれるんだよ!!

いいリーダーの存在が人や組織を活性化させる。
その生徒会長さんはきっと強さと賢さどっちも持っているんだろうね!
次はよいリーダーの条件と2つリーダーシップの形を紹介するよ。
よいリーダーの条件
組織のカギを握るリーダー。リーダーの考え方しだいで組織の色は白にも黒にも変わります。
それほどリーダーは責任ある重要な仕事なのです。
救急救命士であればよっぽどのことがなければ、将来的には救急隊長などのリーダーを経験することでしょう。
ここではよいリーダーであるために必要な5つの要素をご紹介します。
・判断能力:情報を収集し、迅速な判断を下す能力
・責任感:チームの責任は自分が取るという強い意志
・誠実さ:どんなことにも真摯に対応する心
・コミュニケーション能力:対話を通して信頼関係を構築する能力
・寛容性:柔軟性があり失敗を許容できる度量
これらの要素はリーダーが持ち合わせていなければならない必須項目です。
先天的にリーダーシップの備わっている人も中にはいますが、意識して訓練することで身につけることができます。
率先垂範して行動し、部下の話に耳を傾け理解を示す努力をすればきっとあなたも良いリーダーになれるでしょう。
特に下の3つの要素に関してはコーチングを身につけることをオススメします。

トップダウン型リーダーシップ

リーダーシップの1つ目の形は「トップダウン型リーダーシップ」
このリーダーシップの形は従来の消防組織のような上意下達のスタイルです。
上司の言うことを部下は黙って聞いていればいい。部下には上司に意見する権利はありません。
ピラミッドの最上段のリーダーから指示が順番に下りてくるようなイメージですね。

このようなトップダウン型リーダーシップは意思決定の速度が速いのでリーダーに人望があり優秀なら組織は強靱になります。
しかし、リーダーが舵取りに失敗してしまうと部下達は自分で考える力が育っていないので、烏合の衆と化してしまうのです。
経験不足の救急隊長が苦労するのは従来のトップダウン型を目指してしまうから。それと今の若い人達は根拠がなければ動かないと言われており、上から押さえ込むこの形が通用しなくなってきているのです。

トップダウン型のリーダーシップか!!
確かに強いリーダーは頼りになるけど、ずっと言いなりになっていると自分で考えて行動できなくなっちゃうかも?

トップダウン型のメリットはなんといっても意思決定が早いこと。
デメリットはワンマン体質になりやすいことと部下が思考停止して成長しないことかな。
サーバント型リーダーシップ

2つ目は「サーバント型リーダーシップ」日本語では支援型のリーダーシップと呼ばれています。
このリーダーシップの特徴はトップダウンと違い、リーダーが一方的な指示命令ではなく部下が自主的に考え行動できるように積極的に支援を行います。
部下の意見を積極的に傾聴し承認することでコミュニケーションを活性化しチーム力を高めるのです。
逆ピラミッドの最下段で部下を支える縁の下の力持ち的なリーダーのイメージですね。

部下の言いなりになるのではなく、目指すべきビジョンを達成するために積極的に支援するのがサーバント型リーダーシップです。
双方向性のコミュニケーションを基本とするので部下との信頼関係が強固となり、積極的な行動を促す事ができます。
デメリットを挙げるとしたら意思決定に時間がかかること。1分1秒を争うような救急現場では部下の意見を聞いている暇が無い場合もあるでしょう。
しかし、今後のリーダーシップは部下のポテンシャルを引き出せるサーバント型が求められます。上司も部下と目線を合わせ一緒に成長するといったようなマインドが必要ですね。

サーバント型のリーダーシップか!
リーダーが自分の話を聴いてくれたら、やっぱりやる気が出るよね。

サーバント型はここ最近注目されている新しいリーダーの形だけど今の時代に合っていると思う。
時代は確実に変わってきているから、それに合わせていかなきゃいけないよね!!

トップダウン型とサーバント型のリーダーシップをご紹介しました。
コミュニケーションの円滑化や人材育成を行う上ではサーバント型をオススメしますが、救急救命士の仕事の特性上、緊急かつ重要な場面が多くあります。
1分1秒を争う場合は迷うことなくトップダウン型のリーダーシップを発揮しましょう。
状況に合わせてトップダウン型とサーバント型を使い分ける。このことがこれからのリーダーに求められる能力なのです。

図のように状況に合わせたメリハリの効いたリーダーシップが発揮できれば、部下はあなたを信頼し目標の先輩として尊敬の眼差しを向けてくれることでしょう。
チームを引っ張る強い決断力と部下の意見に耳を傾ける柔軟性。これを是非意識してみてください。
次は救急活動を例にして2つのリーダーシップの活用方法についてご紹介します。
トップダウン型リーダーシップの活用
救急活動でトップダウン型のリーダーシップを発揮するには、知識や経験、人望など多くの要素が必要です。
やってはいけないのは語気を強めて、強制的に部下を服従させること。
平時からの信頼関係構築やスキルアップに励んでいるリーダーなら、トップダウン型リーダーシップのメリットが十二分に発揮され傷病者の救命に繋がることでしょう。
それでは会話形式でトップダウン型のリーダーシップを確認してみましょう。

先輩さん、観察の結果、傷病者は心肺停止状態です!!
(超緊急事態)

了解!救命士の後輩くんはすぐに医師に連絡して特定行為準備、俺が胸骨圧迫する。
機関員はAEDを張りながら家族に状況を伝えてくれ!!

了解しました!!
(先輩さんの指示はいつも適切で頼りになるな)
先輩さんの適切な指示で超緊急事態である心肺停止の現場でチームが連携し、適切な活動ができました。
これは先輩さんに経験や人望があり、部下達が出された指示に対して納得して行動したからです。
近年は経験の浅い若い救急隊長が増えており、このトップダウン型リーダーシップを上手く発揮できないという悩みを良く耳にします。
その場合はトップダウン型と次に紹介するサーバント型を上手くミックスするよう意識しましょう。
サーバント型リーダーシップの活用
サーバント型リーダーシップのメリットは相手が自分で考え自主的に行動するようになるという、人材育成を含んでいることです。
冒頭でもお伝えした通り、最近の若い人達は価値観が多用化しており、従来の上意下達のコミュニケーションを好みません。
相手の意見をしっかり聴きつつチームのベストな活動を提案できる支援型のリーダーが求められているのです。
それでは会話形式でサーバント型のリーダーシップを確認してみましょう。

先輩さん、観察の結果、傷病者はショック状態。
強い胸の痛みを訴えています。

(強い胸痛で血圧も低い?心筋梗塞か??)
後輩くん、救命士としての見解を聴かせてくれ。

問診の結果、痛みの部位が移動しているので左右の血圧を測ってみた方がいいと思います。
もしかしたら急性大動脈解離かも知れません。

了解。後輩くんは観察を継続しつつ血圧測定してくれ。
搬送準備と家族への説明はこちらでやっておく。

了解しました!
(僕のことを信頼して任せてくれた。もっと頑張ろう)
病院での診断の結果、病名はやはり急性大動脈解離でした。
先輩さんが自分の判断だけではなく、専門家である救急救命士の後輩くんに助言を求め、行動を後押しして自分は支援に回ったからこそチームとして良い活動ができたのです。
救急隊は通常3人1組のチームで活動します。リーダーだけが一人で頑張る必要はありません。
必要な場合は後輩であっても助言を求め、その情報を総合的に勘案して正しい決断を下す。
これが今後の理想的なリーダー像になってくるのではないでしょうか。

2つのリーダシップの違いがよくわかったよ。
状況によって両方を上手く使いこなせれば最高のリーダーになれそうだね!!

トップダウン型とサーバント型の良いとこ取りの2刀流。
熱いハートとクレバーな頭脳を持つリーダーの存在は組織を変えるよね!!

救急救命士に必要なスキルであるリーダーシップ。
私は消防士時代にトップダウン型のリーダーシップをよく目にしてきました。
そしてこのスタイルのデメリットも強く印象に残っています。
リーダーの影響力が強ければ強いほどチームのパフォーマンスは個人に依存します。その結果が良ければ問題ありませんが、悪ければそれは傷病者の不利益に繋がってしまうのです。
私が経験したトップダウン型リーダーシップのエピソードをQ&A形式でご紹介します。
- どんな経験だったのか教えて?
- 私がまだ新人の頃、病院前外傷救護活動には大きな変革が起きていました。それは欧米型の外傷医療セミナーが導入され、外傷に対する救急活動が平準化されてきたことです。
若かった私はそのセミナーに参加し最新の活動を学びました。そして数日後、実際に交通事故の現場に出動したのです。
当時の救急隊長はトップダウン型で隊員は自分の指示に従うことが当然というタイプでした。
- どんな救急活動だったの?
- 傷病者はバイクで転倒して、大きな外傷はないものの首の痛みと体の痺れを訴えていました。
セミナーで麻痺がある場合は全身を固定して搬送するべきということを知っていたので、救急隊長にその旨を進言しましたが、隊長の答えは「おまえは俺の指示に従っていればいいんだ。そのまま救急車に入れて病院へ急ぐぞ!!」私はその指示に従うことしかできず固定はせずに傷病者を救急車内に収容しました。
- 結果はどうなったの?
- 麻痺のある交通事故ということで大きな病院に運んだのですが、医師に開口一番「交通事故で麻痺があるのになぜ全身を固定して搬送してこないんだ。予後が悪くなったら救急隊は責任がとれるのか!!」と強く叱責されました。
トップダウン型のリーダーシップは時としてこのような弊害を引き起こします。
この一件以来、私は可能な限り相手の意見を聴くサーバント型のリーダーシップを意識するようになったのです。消防を離れた今でもこのエピソードは忘れられない教訓となっています。

リーダーの力が強すぎると間違いが起こったときに大変だ。
トップダウン型のリーダーシップはそんな弱点があるんだね。

もちろん意思決定が早いというメリットもあるんだけどデメリットも多い。
今はパワハラの問題もあるし、昔ながらの指示命令が通用しなくなってきている。
リーダーシップも時代に合わせて変わっていかなきゃいけないよね。

・リーダーシップにはトップダウン型とサーバント型がある
・リーダーシップは状況によって使い分ける必要がある
・今後求められてくるのはサーバント型リーダーシップ
私たちは太古の昔から集団を形成し生きてきました。動物の集団を見てみても強いものが食料や雌を独占する様子が観察されます。
しかし、人間は進化してきました。テクノロジーを発展させ身体的な強弱はもはや優劣に関係なくなりました。
同じように組織に求められるリーダーシップの形も変わって来ているのです。
進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンは次のような言葉を残しています。「最も強いものが生き残るのではない、最も賢いものが生き残るのでもない、最後に生き残れるのは変化できる者だけだ」
トップダウン型とサーバント型のリーダーシップ。この二つを真に理解し是非、救急活動や職場でのコミュニケーションに役立ててください。
今回ご紹介したリーダーシップをあなたが実践してより良いチーム、組織を作ってくれれば、これに勝る喜びはありません。

救急救命士のリーダーシップ。
強いリーダーは組織をまとめ、理解あるリーダーは組織を発展させます。
是非あなたの理想のリーダー像を実現してください。
救急救命士のことをまとめているこちらの記事も是非ご覧ください。

サーバント型リーダーシップ。初めて聞く言葉でした。コーチングにも通ずるところがありますね。
以下は質問です。
相手の意見を聞き入れる余地のない問題、例えば、販売価格100円で交渉して来い、一歩も譲歩するなとの上司からの指示。自分と部下は90円が妥当路線だと考えているが、100円以下で話をまとめても上司の決済は下りない。
要するに、部下からの意見を吸い上げる裁量権が無い場合、どうしたらイイでしょうか?
コウさん
コメントありがとうございます。
サーバント型リーダーシップはコーチングと相性いいですよ。
質問の件は難しい問題ですね。
相手を変えることはできないとの原則に則ると、私なら上司の上司を上手く使いますね。微力ですが参考になれば!!