消防救急救命士は子供達の憧れの職業の1つ。
人の命を救うという崇高な使命を背負い、命の現場に駆けつけるそれが消防救急救命士達。
でも知り合いに消防関係者でもいなければ彼らのリアルな日常を知ることはできません。
せっかく憧れの消防救急救命士になったのにこんなはずじゃなかったと後悔しないために、この記事では消防救急救命士のリアルをお届けします。
・消防救急救命士の日常が知りたい
・新人救急救命士が気を付けなければいけないことってなに?
・著者が経験したエピソード紹介

こんにちは。民間救急救命士歴15年、元消防士のKIDです。
消防救急救命士は現代のヒーロー。
正義感が強く献身的な彼らの働きには尊敬の念を抱く方も多いはず。
しかし、彼らの日常は意外と知られていないのが事実。
この記事が皆さんに消防救命士の日常を知っていただくきっかけになってくれると幸いです。
目次

救急救命士になって消防に就職し、救急現場でその知識や技術を活かして活躍すること。
これは多くの救急救命士学生が思い描く理想の形だと思います。
私も憧れていた消防士となり、制服に袖を通した時のことは今でも鮮明に覚えています。
あの時の燃えるような情熱と未来への希望に満ちた想い。若さって素晴らしいですね。
ここでは実際に私が経験したり、消防での実習を通して見た消防救急救命士のリアルな日常をご紹介します。
・出勤と交代
・救急車・資機材点検
・体操・朝礼
・救急出動
・事務処理・担当業務

僕が生まれるずっと前にパパは消防士さんだったんだよね。
どんなお話が聞けるのかすごく楽しみだよ!!

パパは人の役に立ちたいって気持ちが昔から強くて、消防救命士の道に進んだんだよ。
その気持ちは今でも変わらない。
今回はパパの経験も合わせて消防救命士のリアルな日常をお話しするよ!!

出勤から交代
消防士は基本的に24時間勤務でシフトを組んで働いています。
地域住民からの救急要請や火災通報に備え365日必ず消防署には消防士や救急救命士が待機しているのです。
朝出勤すると制服に着替え、前日泊まりだった班から引き継ぎを受けます。
・前日の救急出動件数、内容、注意事項
・当日の救急講習やイベントについて
・事務仕事と等の引き継ぎ
ちなみに早朝は救急出動が多発する時間でもあるので、出勤時に救急隊が不在の場合が多々あります。
大都市では仮眠を取る暇もない程頻繁に119番通報が入るので、交代は大きなプレッシャーと疲れから解放される瞬間です。
救急車、資機材点検
交代後は救急車や救急車内の資機材の点検を入念に行います。
救急現場でのミスは許されません。常にベストな活動が行えるようプロとして装備を整えるのです。
近年、救急車や救急資機材の機械化が進み点検の重要性が増しています。
もし心肺停止傷病者を前にしてAEDの電源が入らなかったら?もし低酸素状態の傷病者を前にして酸素ボンベの容量がゼロで酸素が投与できなかったら??
資機材の不具合は死に直結するあってはならない事態なのです。
救急車点検:サイレンやライト類、無線機の確認
救急資機材:AED、救急処置バック、特定行為資機材、吸引器、携帯電話等
搬送資機材:ストレッチャー、ボード類

うわぁ、たくさん点検しなくちゃいけないものがあるんだね。
パパは車や道具で何か困ったことがあるの?

さっきまで光っていたライトが急に点かなくなったり、
ストレッチャーの故障で傷病者を落としそうになったこともある。
そんな失敗をたくさんしてるから今は点検の大切さが凄くよくわかるよ。
体操、朝礼

救急救命士といえど傷病者を搬送したり、重い資機材を持って階段を上がったりする必要があるため必要最低限の体力は必須項目。
特に狭い場所からの移動や階段を使って傷病者を搬送する場合は非常に体力を使います。
消防独自の体操で体をほぐし、消防によっては消防隊や救助隊と一緒に筋力トレーニングやランニングを行い体力を錬成するのです。
・消防体操
・腕立て伏せ30回
・腹筋30回
・スクワット30回
・消防署の回りをランニング
その後に朝礼を行い救急隊としての1日の動きを全体に展開し消防隊、救助隊などと業務を共有します。

救命士さんも体力が必要なんだね。
パパが体力で一番苦労したことってなんなの?

深夜に酔っ払いの100キロ近い男の人を隊員2人で階段から下ろしたことかな。
暗くて狭い階段を5階から1階まで下ろしたんだけど、最後は腕が痙攣するくらい辛かったのを覚えているよ。
意識状態が悪くてたまに暴れるから落としてしまうんじゃないかって凄く怖かったな。
救急出動
勤務している自治体の人口規模で救急出動件数はバラバラですが、総務省消防庁の統計を見ると救急出動件数、搬送人員共に増加傾向にあります。
原因はやはり高齢化が進みお年寄りの急病や怪我が増えているからと推測されています。
病院から病院の転院搬送を病院救急車が担ってくれている地域もありますが、それはまだまだ少数。
人口の多い大都市では勤務中はずっと救急車の中という状況もリアルな現実です。
このように消防救急隊の負担は年を追うごとに増え続けているのです。

具体的な救急出動内容を知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

事務処理、担当業務
事務処理も消防救急救命士の大切な業務の1つです。
救急出動時に救急救命士が医療行為である救急救命処置を実施した場合は、その内容を救急救命処置録に記録し5年間保管することが法律で定められてます。
救急救命士は、救急救命処置を行ったときは、遅滞なく厚生労働省令で定める事項を救急救命処置録に記載しなければならない。
救急救命士法 第46条第1項

この他にも消防署独自の出動報告書や心肺停止傷病者に対応した場合はウツタイン様式で記録するなど、救急出動の度に事務処理が発生します。
また消防によっては警防課、予防課、庶務課などの業務を救急救命士が担当している場合もあり、それらの担当業務をこなすために深夜まで事務作業に追われることも。

救急出動だけでも大変なのに書類まで作らなきゃいけないなんて救命士の仕事って大変だなぁ。
パパも救急以外のお仕事をしていたの?

パパの働いていた消防は規模の小さい消防署だったからいろんな仕事をしていたよ。
特に大変だったのは庶務課の給料計算かな?救急出動の救命士手当や夜間時間外手当なんかの計算が複雑で何度も失敗して先輩によく怒られてたっけ。
昼食・夕食の準備
「消防飯」なんて言葉がトレンドに上がることもある程、消防士には料理の腕が堪能な人が多いのは事実です。
私自身、消防に就職して最初にぶつかった壁はこの料理でした。学生時代に食事付きの寮に入っていた私には基本的な料理のイロハが全く備わっていなかったからです。
まるで料理人のような手さばきで包丁を操る先輩方、コクのあるスープと抜群の湯切りタイミングで出される麺類、ニンニクたっぷりでお店の味にひけを取らない唐揚げなど。そのクオリティには驚かされたものです。
特に救急隊は満足に昼食や夕食を食べる時間を確保できない場合もあるため、短時間で食べられて、救急出動で時間が開いても美味しいつけ麺うどんなどが重宝されていました。

パパは今でもたまにご飯を作ってくれるけど、料理が上手なのは消防でたくさん練習したからなんだね。

パパの務めてた消防ではラーメンを骨からダシをとって作ったり、カレーに入れるタマネギをターメリック状にまで炒めたり、そのこだわりはまるで料理人さながらだったよ。
でも、そのおかげで基礎が身について大体の料理は美味しく作れるようになったかな。

近年社会的にも注目度が高い様々なハラスメントの防止や女性消防士が増えてきたとはいえ、消防はまだまだ独特な男社会が残っています。
希望に胸を膨らませて消防救急救命士になったのに、職場で上手くいかなくて退職なんてことにならないよう、私の経験から新人消防救急救命士が注意すべき3点をご紹介します。
・上下関係、礼儀作法について
・救急救命士としての振る舞いについて
・職場以外のコミュニティを持つこと
上下関係、礼儀作法について
どんな世界でも第一印象は大切です。これを心理学では「初頭効果」なんて呼びます。
特に24時間勤務で寝食を共にする消防職員は人間関係の維持が大変。
また、時には自分の身に危険が及ぶ消防士という職業上、上司や先輩の言うことは基本的に守る必要があります。
大卒や専門学校を出てすぐに就職できれば20歳から22歳で消防士になりますが、高卒であれば18歳から消防士になることが可能です。
年上はもちろんのこと、たとえ年下であっても職業上は先輩です。敬意を持って接しましょう。

挨拶や言葉使いって大切だよね。
僕も学校では先生や上級生にはきちんと敬語でお話ししているよ。

学生の時とは違って、年齢ではなく経験年数で先輩、後輩が決まるから年下であっても社会人としては先輩。
郷に入りては郷に従えなんて言葉もあるけど、円滑な人間関係構築には消防独特な上下関係や礼儀作法に注意した方が良さそうだね。
救急救命士としての振るまい方
消防士の使命は地域住民の生命と財産を守ることです。そのためには知識と技術、経験が必要になります。
大学、専門学校で救急救命士の国家資格を取得した消防救急救命士は、この経験が圧倒的に不足しています。
救急救命士になる方法は以下の2パターン。
前者の方法で国家資格を取得した消防救急救命士はまさに即戦力、しかし後者は資格は持っているものの言うなればペーパードライバーです。
消防には経験不足で資格だけ持っている大学や専門学校出の救急救命士に懐疑的な見方をする方も少なからずいることも残念ながら事実なのです。
資格を持っていてもしっかり先輩の指導に耳を傾け、一番大切な生きた経験を積みましょう。
職場以外のコミュニティを持つこと
消防の仕事はその特殊性から非常にストレスがかかります。
24時間という特殊な勤務形態や悲惨な現場、上司、先輩からの叱責、自分の不甲斐なさにこんなはずじゃなかったと仕事を投げだしたくなることも1度や2度ではないでしょう。
そんな時、外部のコミュニティを持っていると自分自身を客観的に見つめることができ、ストレス軽減や自己肯定感アップに繋がります。
・スポーツ・趣味のコミュニティ
・医療系セミナーのコミュニティ
・男女のコミュニティ
特に医療系セミナーは知識だけではなく、医師や看護師等の他の医療従事者との繋がりもできるのでオススメ。
私も多くの医療系セミナーでインストラクターを務めていますが、ここでできたコミュニティは人生の大きな支えになっています。

パパはよく先生としていろんな所で指導もしているよね。
たくさんお友達がいて羨ましいな!!

医療系セミナーはとっても勉強になるけど、せっかくならインストラクターとして指導側に回ってほしいな。
次世代の医療従事者を育てるという1つの目的で団結した他職種チームから多くのことが学べるよ。
コースの後に仲間達と参加する懇親会も盛り上がるし最高の時間だったな。

消防救急救命士になればその日から退職するまで非日常を生きることになります。
24時間の勤務、衝撃的な現場、死との向き合い方、住民の個人情報・生活様式など数え上げればきりがないほどです。
ここでは新人消防救急救命士や学生さん達によりリアルな消防ライフを知っていただくために、私の消防時代苦労したエピソードをQ&A方式でご紹介します。
- 消防時代一番苦労したことは?
- 一番苦労したことは消防士になってすぐに自信を失ったことです。地元を離れ慣れない消防救急救命士としての仕事や生活の中、先輩達からたくさんの叱責を受けました。救急現場、事務仕事、果てには料理の味までありとあらゆることで指摘を受け、そのプレッシャーでまたミスを繰り返すという負の循環に陥ったのです。
自分はこんなに何もできなかったんだ、自分は消防士に向いていないのかも?そんな想いが常に頭の中を巡ってすっかり自分を信じることができなくなっていました。
- どうやって立ち直ったの?
- そんな自分の状況を見かねた心ある先輩達が休日にスポーツや食事に誘ってくれました。
そこで先輩達とコミュニケーションを取ることによって職場での人間関係がしだいに改善し、
少しずつですが仕事にも慣れ叱られる回数も減っていったのです。
そうすると自然と笑顔が増え、良い循環が生まれ始めました。
人の悩みの大半は人間関係からきていると言われていますが、あの時の経験から本当にそれを実感します。
- 消防で認められるには?
- 消防士として何もできない自分でしたが、転換期となったエピソードがあります。
当時、私の所属する消防ではJPTEC(病院前外傷救護)のインストラクターがおらず、この分野で周辺の消防から遅れを取っていました。
そこで私は専門学校の先生やすでにインストラクターになっていた同級生に頭を下げ、休日返上で直接指導を受けることで試験になんとか合格しインストラクター資格を取得したのです。
身につけた知識や技術を基に職場で研修会を開き指導したところ、その日から明らかに先輩達の私を見る目が変わったのです。このことは駆け出しの自分にも救命士として貢献できることがあるという大きな自信に繋がりました。
この分野なら〇〇という武器を作ること。組織に自分という価値を提供すること。そして一歩踏み出す勇気を持つことが何より大切だと言うことをこの経験から学びました。

話してくれてありがとう。
パパにも消防士時代にこんな苦労があったんだね。

思い返せば人生で一番苦労をしたし、時には悔し涙を流したこともあったけど、
今はあの時消防救命士になれて本当に良かったと思っているよ。
あの頃の経験は消防を離れた今も胸の中にずっと残っていてパパの生きる指針になっているんだ。

・消防救急救命士は救急出動だけではなく多くの仕事をこなしている
・第一印象はとても重要、礼節をわきまえて先輩には敬意を持って接する必要がある
・最初は上手くいかなくてもきっかけさえあれば人は変われる
私自身の経験や想いも含めて消防救急救命士のリアルな日常について書かせていただきました。
消防救急救命士はお世辞抜きに素晴らしい職業です。
ここまで人に必要とされて感謝される職業はなかなか無いのではないでしょうか。
もしそんな素敵な職業に就けたのなら、是非自分の幸運を楽しんでほしいのです。
今回の記事がその一助になればこんな嬉しいことはありません。

病院前救急医療のプロであり命の現場で働く消防救急救命士。
定年まで勤め上げることができれば、その人生は充実感に満たされるものになるでしょう。
一方、私のように消防を離れなくてはいけなくなる救命士がいることも事実。
消防救急救命士以外の資格の活かし方を知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

就職してすぐの、ペーパー救命士が注意すべき3点はまさにそのとおり。ペーパー救命士なのに、救急現場や、救急技術で、普通の救急隊員を引っ張っていかなければならない。一方で、気負い過ぎても、出過ぎたことも出来ないので、その程度加減は、かなり難しい。そこで転ばないで貰いたいです。
コウさん
コメントありがとうございます。
大学や専門学校卒の救急救命士の最初の壁はこれですよね!
経験はなくても現場に出れば有資格者としてプロに徹しなければならない、
でも出すぎた杭は打たれる世界。
消防組織の難しいところですね。