部下や後輩と上手くコミュニケーションが取れない、思ったように指導ができない、自分には人望がないような気がする。このような悩みをお持ちの方は多いのではないでしょうか?
職場での人材育成は非常に重要な問題ですが、令和になった今でも昔ながらのやり方で教育や指導を行っている組織も少なくありません。
近年、少し厳しく指導すると若手がすぐ辞めてしまう。逆にパワハラと言われるのが怖くて思い切った指導ができないなどの声をよく聞くようになりました。
これらの問題を解決する方法はティーチングとコーチングを上手く使い分けることです。
この記事では多くの組織が問題を抱えている「人材育成」について解説します。
・人を育てるティーチングとコーチングについて
・ティーチングとコーチングの活用方法
・救急救命士エピソード紹介

こんにちは。民間救急救命士歴15年、元消防士のKIDです。
現在はコーチングの指導者として社内講師も務めています。
人を育てることは組織にとって重要任務。
それは組織の強さに如実に跳ね返ってくるからです。
実際、私も職場で人材育成を担当していますが苦労が絶えません。
今回の記事では私が実践している人材育成についてご紹介します。
目次

ティーチングとコーチングを上手く使い分けることで人材育成は非常に円滑に進みます。
なぜならこの2つは相互に補完し合って効果を高めることができるからです。
両者の違いは「教える」にフォーカスするティーチングに対して、コーチングは「引き出す」コミュニケーションであること。
これらをバランス良く使い分けることで、相手のモチベーションを保ちながら人を育てることができます。
それでは具体的にどのように使い分けるべきか見ていきましょう。

図のように相手に「知識・スキル・経験」がない場合はティーチングが有効になります。
初心者や新人に質問型のコーチング手法で引き出そうとしても、相手の中に答えが無いので効果が期待できません。
このような場合は丁寧な指導やOJTによるティーチングで相手にまず知識やスキルを付けてあげてください。
まさに小学校、中学校等の義務教育がこれに当たります。消防でも消防士としての基本的な知識やスキルを身につけさせる消防学校がありますね。
相手に知識やスキル、経験がついてきたら徐々にコーチングの割合を増やすことでモチベーション向上や自立を促すことができます。

僕は小学校でティーチングを受けているだね!!
パパはよく僕に質問するけどこれはコーチングなの?

そうだよ。コーチングには「傾聴・承認・質問」っているスキルがあるんだけど、
相手に気づきを与えたり、よりよい行動に導く効果があるんだ!!
ティーチングとコーチング比較
ティーチングとコーチングには人を育てる上で明確な特徴の違いがあります。
一番の違いはティーチングは上下のコミュニケーションであるのに対して、コーチングは相手と対等な立場に立ち、同じ目線で行われることです。
階級社会の消防組織ではどうしてもティーチング重視の指導がメインになりがちですが、コーチングを上手く使うと人材育成はもちろんコミュニケーションが活発化しますよ。
両者の違いを理解して相手の知識・スキル・経験に合わせて上手く使い分けましょう。

図のようにコーチングには相手のモチベーションを上げ、自立を促す効果があります。
それは他者からの押しつけではなく、傾聴や承認、質問型のコミュニケーションによって自分の中から答えが出てくるからです。
ただし、スピード感は直接答えを教えるティーチングに劣るという特徴も。
1分1秒を争う救急現場では指示命令が迅速なティーチング、時間的に余裕のある救急訓練などではコーチングを使うと効果が上がりそうですね。
このように指導担当者がティーチングとコーチングの違いについてしっかり理解すれば人材育成の効果は最大化します。

ティーチングとコーチングの違いがよくわかったよ。
確かに自分の話をしっかり聴いて褒めてくれたらやる気がでると思う。

人間には承認欲求っていうのがあるから、きっとそこが刺激されるんだね。
この2つを上手く使えたら人材育成はきっと上手くいくよ。
\ 30日間無料キャンペーン開催中‼ コーチングが人を活かすが無料で聴けます /
信頼関係の構築方法

人材育成はもちろん人間関係において信頼はすべての土台だといわれています。
信頼関係であるラポールが構築できなければ、ティーチングやコーチングは上手く機能しないからです。
3名という少人数で困難な救急現場に対応する救急救命士にはやはり信頼関係構築は必須事項。
しかし、時代の変化もあり昔ながらの上下のコミュニケーションだけでは信頼関係を築きにくくなったのも事実です。
それではどうすれば信頼関係(ラポール)を構築できるのでしょう?

信頼関係構築には「傾聴・承認・質問」といったコーチングスキルが有効です。
人は自分を認め理解してくれる人に信頼を寄せるようにできています。これを好意の返報性といいます。
今の若い人達は聡明なのでしっかり物事の背景を説明して、自分自身で納得しなければ動きません。
誠実な態度で相手の話にしっかり耳を傾け、どんな内容でも一度は受容して心から共感できたなら、あなたと相手との間には心と心に橋が架かった状態。すなわちラポールが構築できるでしょう。
上下関係のハッキリした組織で部下と目線を合わせることは怖いことです。しかし、その先に人と人としての真の信頼構築がある。
人を育てる立場の人は是非勇気をもって一歩踏み出してください。

ラポールってなんだかカッコイイ言葉だね。
信頼関係構築って奥が深いな。

ティーチングばかりだとどうしても信頼関係は構築しにくい。
時には相手の話をじっくり聴いたり、長所を褒めてあげることが信頼構築への近道だね!

ティーチングでしっかり知識やスキルが身についた後は、コーチングを行うことで人材育成の効果は最大化します。
なぜならコーチングはモチベーションアップや自ら行動する自立を支援する力があるからです。
救急救命士として基本的な観察や処置が身につき、現場経験をある程度積んだ隊員には積極的にコーチングを取り入れましょう。
また、教えることで学習定着率は90%に達するという研究もあるので、早い段階でメンターとして後輩の指導をさせるのも効果的です。
ここでは救急活動や市民への救命講習を例にティーチングとコーチングの活用方法をご紹介します。
ティーチングの活用方法

ティーチングは人材育成初期には欠かせない手法です。
ここでしっかりとした基礎を身につけることで、救急現場での応用や後進の育成などが可能になります。
消防の世界でも職人同様に先輩の仕事を見て学ぶという風習がありますが、これでは近年の消防組織の急激な若返りに対応できません。
救急救命士研修所や大学、専門学校で学んできた基礎を発展させるような連続性のあるティーチングがより良い人材育成の鍵となるのです。
それでは会話形式でティーチングについて確認してみましょう。

先輩さん、先ほどの救急活動ですが出血量が多くて直接圧迫止血した瞬間にガーゼが血液で赤く濡れてしまいました。
ガーゼを交換するべきかどうかについて教えていただけますか?

人間は出血すると自分で血を止めようとする力が働く。
直接圧迫止血法は出血量を減らし、その力を高める効果があるんだ。

なるほど専門学校でそう習った記憶があります。
それでは血液で濡れたガーゼの上にもう一枚ガーゼを重ねて圧迫するのが正解ですか?

惜しい!濡れたガーゼを放置すると、人間の血液を止めようとする働きを弱めてしまうんだ。
だから正解は血液で濡れたガーゼは乾いたガーゼと交換することがベストだね。
この例では先輩さんは後輩くんの疑問に対して医学的根拠を示しながらティーチングを行っています。
ただ単純にガーゼを交換するという答えだけを与えても、本当の意味での指導にはなりません。
しっかりコミュニケーションを取りながら根拠を持って指導することでティーチングの効果はより大きくなるのです。
また、「そんなことも知らないのか」や「なぜ間違った処置をしたんだ」のようなネガティブな対応は容易に相手の心を折ってしまうので注意してください。
このようなティーチングができれば後輩くんのあなたへの信頼度も向上し、今後の救急活動でもその信頼関係が活きてくることでしょう。
コーチングの活用方法

コーチングは知識やスキルがある方への人材育成に最適な手法。
なぜなら問いかけにより、相手は答えを考える過程で新たな気づきやひらめきを得ることができるからです。
それらを救急活動に活かせばティーチングでは学びきれなかった領域まで活動レベルを高めることができます。
また、コーチングを行うことは指示待ちではなく、自分で考え行動できる現場力向上にも役立つでしょう。
それでは会話形式でコーチングについて確認してみましょう。

先輩さん、一般市民に行う普通救命講習に関してご相談なのですが、
最近アンケートの点数が伸びなくて悩んでいるんです。

きちんと自分の講習を振り返る姿勢は立派だね。
前回の普通救命講習での反省点は何かあったのかな?

講義で専門的な言葉を使いすぎて受講者を置き去りにしてしまったことと、
スキルチェックを厳しくやり過ぎて途中で雰囲気が悪くなってしまいました。

なるほど。しっかり分析できているね。
じゃあ、どうやったらその2つの問題を改善できるかな??

誰にでもわかりやすい講習にできるよう極力専門用語を使わない。また紙の資料を事前配布するのもいいと思います。
スキルは評価基準を事前に決めて、受講者には基本ポジティブなフィードバックを心がけます。

いい方策が出てきたね。
それらを実行できればきっとアンケートの点数も伸びてくると思うよ。
コーチングは相手の中に答えがあると考えてアプローチします。
この場合は先輩さんは自分の中の答えではなく、後輩くんの中の答えを引き出すための質問をしました。
こうすることで、それが本人の気づきや強い行動の動機付けに繋がるのです。
また「なぜできなかったんだ」や「どうしてダメだったんだ」などの否定形の質問は相手のやる気を奪ってしまうので極力使わないように注意してください。
相手に知識やスキル、経験がある場合はすぐに答えを与えるのではなく質問によるコミュニケーションを意識しましょう。

ティーチングとコーチングって全然やり方が違うんだね!!
人を育てるにはどっちがいいんだろう?

どちらが優れているって訳ではないんだけど、
この2つを上手く使い分けられれば確実に人材育成の質は高まるよ。

人を育てる上でポイントとなるのは信頼関係の構築とティーチングとコーチングの使い分けです。
相手との信頼関係があれば、積極的に指導者の話に耳を傾けるようになるので人材育成の質やスピードは飛躍的に高まります。
私は過去にこの二つを高いレベルで実践する医師に出会いました。
当時は気がつきませんでしたが、その方が使っていたのが信頼をベースとしたティーチングとコーチングの使い分けだったのです。
私が経験した人材育成の名人のティーチングとコーチング活用方法をQ&A形式でご紹介します。
- どのような出会いだったの?
- 民間救命士になってすぐのこと。私はなんとかチャンスの糸口を掴もうと様々な研修やセミナーに参加していました。そこで出会ったのが救急救命士に対して独自の研修会を開いている医師の彼でした。
忙しい医師の仕事の傍ら地方の消防などに直接出向いて最新の医療情報や技術を無償で教える。
また、医師と救急救命士がコラボした救急医学の書籍も多く発行するそんなエネルギッシュな方。
初めて対面したときはその一種独特の雰囲気に声をかけるのをためらったことを覚えています。
- どのような指導方法だったの?
- 彼の指導方法はユニークそのものでした。英語の論文などを読み込んで日本ではまだ普及していないような最新の知識をしっかり講義してくれるのですが、突然受講者にそのことについてどう思うのか質問するのです。時には皆の前に出て説明や実演するように指示することも。受講者が質問に答えられても答えられなくてもその人を称え全員で拍手する。研修会に参加しているというより何かのエンターテイメントを見ているそんな不思議な時間でした。しかも、講義してくれた内容は通常の研修会の何倍も鮮明に自分の頭の中に残っているのです。
- 人材育成の方法ついて教えて
- 彼の手法を分析してみると、信頼関係の構築とティーチングとコーチングの使い分けが絶妙なバランスで行われていることがわかります。
まず、救急救命士にとって遠い存在である医師が自分たちとしっかり目線を合わせて向き合ってくれる。このことだけでも医師との交流になれていない救急救命士にとって十分な信頼関係の構築に繋がります。その上で、世界標準の最新知識を巧みな話術でわかりやすく講義(ティーチング)し、傾聴・質問・承認(コーチング)することで相手のモチベーションや理解度も向上させている。
彼の用いた手法はまさに人材育成のお手本だと思います。
消防組織ではどうしても上下の関係によるティーチングが指導のメインになりがちです。
是非、彼のように信頼関係を構築し、コーチングも上手く使ってみてください。
そうすれば人材育成の形は劇的に変わるはずですよ。

信頼関係を作ってティーチングとコーチングを使い分けるか。
凄い先生だね。僕もそんな先生に教わってみたいな!

その先生を一言で表すならカリスマ。パパが最も影響を受けた人の1人だね。
同じようにすることは難しいけど彼の手法のエッセンスを実践するだけでも相手への伝わり方は全然違うよ!!

・人材育成のポイントはティーチングとコーチングの使い分け
・信頼関係(ラポール)の構築が人材育成の質を左右する
・良い指導者の方法を踏襲することで研修効果は何倍にもなる
人を育てることは相手だけではなく、自分を成長させる絶好のチャンスです。
その分野の知識はもちろん人にものを伝える力、プレゼンテーション能力など多くの力を鍛えることができます。
是非、相手だけではなく自分も共に成長できるような人材育成を意識して実践してください。
そうすれば結果的にあなたは周囲から尊敬され、後輩からも慕われる良き指導者になることでしょう。
甲斐の虎と恐れられた戦国武将武田信玄は次のような名言を残しています。
「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」この言葉の意味は人の力は強固な城にも匹敵する財産であるということ。
今回ご紹介した人を育てる方法があなたの人材育成に少しでもお役に立てばこんなに嬉しいことはありません。

人材育成は組織にとって最重要な課題です。
人を育てられる組織はより強靱に、育てられない組織は必ず荒廃しています。
ティーチングとコーチングこれらの教えると引き出すを上手く使って人を育ててください。
そうすればあなたの組織は今後も発展し、かけがえのない居場所となることでしょう。
救急救命士について書いたこちらの記事も是非ご覧ください。
KIDさん、いつも楽しく読ませて頂いております。
信頼関係(ラポール)が最も大切で、ここが揺らいでいると、そもそも傾聴に辿りつかないですよね?
コーチングスキルを知る者を、コーチングするのは難易度が高くなりますよね。
この人になら、『傾聴されてもいいかぁ』って思える人間性が大切ですよね。
まず、自分自身が心を開き、耳を傾ける度量が大切ですよ。KIDさん、合ってますかね?
コウさん
コメントありがとうございます。
仰る通りです。何より大切なのは信頼関係。
逆説的ですがそれには傾聴、承認が大きな役割を果たします。
消防は圧倒的にここが弱いですよね。
コウさんならきっといい職場内コーチになれると思いますよ。