皆さんは警備員の中に救急救命士がいることをご存じですか?
テーマパークや企業のオフィスビルなどの大規模集合施設には必ず警備員が常駐しています。
大規模集合施設で重度傷病者が発生した場合に一番大切なのは、発見者がいかに早く適切な応急処置を施し119番通報の判断をして救急隊を要請するかです。
消防庁が公表している統計によると救急車を要請して現場に到着するのは全国平均「8.7分」病院に到着するまでの時間が「39.5分」となっています。

この2つの時間が生死を分けることも少なくありません。
もし、現場にいち早く駆けつけた警備員に医療知識があり心臓が止まっている人に対して迅速にAEDを使えたら?迅速に重症度判断を行って適切に救急車を要請できたら?
・警備員救急救命士ってなんなの?
・警備員救急救命士ってどんな仕事をしているの?
・警備員救急救命士の生の声を聞いてみたい。

こんにちは。民間救急救命士歴15年、元消防士のKIDです。
警備員救急救命士は救急現場に最も近い存在。
彼らは施設内に常に待機してトラブルや傷病者発生などのアクシデントに備えています。
救急現場と消防救急を繋ぐ重要な使命を担っている警備員救急救命士。
この記事が皆さんに警備員救急救命士を知っていただくきっかけになってくれると幸いです。
目次

警備員救急救命士とは警備会社に所属し、大規模集合施設や企業のセキュリティ、駆けつけ警護などを行っている救急救命士のことを言います。
元々、救急救命士資格は消防救急隊員に医療行為ができないことが社会問題化して生まれた資格です。

消防救急救命士が適切な医療行為を施しながら傷病者を迅速に病院に搬送できれば救命率は上がる。
これは疑いようのない事実です。
では消防救急救命士より先に傷病者に接触する警備員が病院前の医療知識を持った救急救命士なら??

デパートや遊園地に行くと制服を着た警備員さんがいるけど、その中には救命士さんもいるんだね。

警備員救急救命士はまだ数が少ないけど、高齢化が進む日本ではこれから特に必要になってくる新しい救命士の形だと思う。
今回は警備員救命士がどんな存在なのか今後の展望も含めて解説するからね!!
警備員救急救命士の歴史
警備員救急救命士の歴史は救急救命士が誕生した平成3年に遡ります。
当時、警備業界最王手の「セコム」は警備業界における救急救命士の活用を積極的に検討していました。
アメリカの民間救急医療会社を買収し、そのノウハウを吸収して日本に導入しようとしたのです。
それとともに当時は、これまで消防が独占してきた救急車の搬送業務を今後は民間にも開放していくことになるだろうと見られていました。現にセコムなどはアメリカの民間救急医療会社を買収してノウハウを蓄積するなど、着々と準備を開始していました。アメリカのように官民協同で搬送業務にあたることになるのが、患者にとって望ましいカタチであると私も信じていました。
第33回 黒岩裕治の頼むぞ!ナースから引用
しかし、施設警備業務が警察の手から民間の警備会社に移ったように、救急搬送が消防から民間へ渡ってしまうことをよしとしない抵抗勢力により、警備の勇であるセコムは救急搬送への参入を断念することになります。
もしこの時、セコムが救急搬送業務に本格参入していれば今日のような資格を活かせない救急救命士が溢れることは無かったかも知れませんね。
救急救命士法の新解釈
長らく消防機関でしか活かせないと言われてきた救急救命士資格ですが、近年は警備を含め民間救急救命士の活用が話題に上がることも増えてきました。
救急救命士法44条第2項にある救急救命処置を行う場所の制限。
近年、この「場所の制限」に新しい解釈がされるようになってきたからです。
救急救命士は、救急用自動車その他の重度傷病者を搬送するためのものであって厚生労働省令で定めるもの(以下この項及び第五十三条第二号において「救急用自動車等」という。)以外の場所においてその業務を行ってはならない。ただし、病院又は診療所への搬送のため重度傷病者を救急用自動車等に乗せるまでの間において救急救命処置を行うことが必要と認められる場合は、この限りでない。
救急救命士法44条2項より引用
・救急用自動車 ⇒ 必要要件をクリアできれば消防救急車(緊急車両)に限らない
・重度傷病者を救急用自動車に乗せるまでの間 ⇒ 消防救急車到着前の民間救急救命士の救護も可能
この新解釈により救急現場から病院に搬送するまでの間であれば消防・民間関係なく活動できるという認識が浸透してきています。
また令和3年10月にはこの場所の制限が法改正により「救急外来」まで拡大されます。


民間の救命士さんてこの法律の解釈に苦しめられてきたんだね。

救急救命士法で定めているのはあくまで場所の制限。
本来は消防じゃなくても活かせるはずの資格なんだけどいつの間にかそうなってしまったんだ。
ここ数年で消防機関以外で活躍する仲間が増えてきて嬉しいよ。
警備員救急救命士の展望
民間企業の救急救命士であっても救急救命士法を遵守しながら活動することは可能です。
セコムは近年救急救命士の採用を再開しており、今後、警備員救急救命士の活躍が増えてくることでしょう。
企業としてメディカルコントロール体制の構築や病院前救護統括体制認定機構の民間救急救命士認定や施設認定も取得しており本気度がうかがえます。
・大規模集合施設で発生した傷病者への救護
・スポーツ大会や大型ライブなどのイベント救護
・見守りサービスへの駆けつけ救護

お出かけしていて急に病気になったり怪我をしても近くにいる警備員さんが助けてくれるって思ったら安心だよね。

救急現場に一番近くにいる警備員が救急医療に関する知識を持っていて適切な処置ができる。
これは施設利用やイベントに参加するお客さんの大きな安心に繋がるよね。
これから警備員救急救命士の具体的な働き方を紹介していくよ!!

現場の一番近くで常に待機し傷病者が発生した際はいの一番に駆けつける警備員救急救命士。
今回は大規模集合施設勤務の救急救命士の業務を例に挙げてご紹介します。
・救急通報の受信と救護対応
・警備員に対する心肺蘇生法・応急処置等の指導
・AED設置営業・コロナウイルス感染防止アドバイス
通報と救護対応
大規模集合施設では1日の来場者数は数千人から多いときは数万人に上ります。
中には体調を崩したり、転倒して怪我をしたりする人もいるので、その際は警備員救急救命士が消防救急救命士と同様に現場に出動して観察、処置、119番通報、施設内搬送を行います。
警備員救急救命士の活動は以下のステップです。
施設内で傷病者が発生した場合は警備室に通報が入る。
3、4人の警備員で現場に急行する。その際、観察資機材、AED、毛布を携行する。
傷病者に接触して詳細に状態を観察する。例:バイタルサイン測定(意識、呼吸、脈拍)、全身観察、問診等。
観察結果や傷病者の希望によって119番通報を行う。軽症の場合は施設内の医務室に搬送する。
消防救急隊に傷病者の状況説明を行い引き継ぐ。
このように警備員救急救命士は傷病者発生から消防救急隊引き継ぎまでの初動対応を担っているのです。
警備員救急救命士の適切な応急処置と迅速な119番通報は確実に救命率を向上させますね。
警備員への救護技術の指導

共に働く警備員に対する救護技術指導も警備員救急救命士の重要な役割です。
職場に救急救命士がいることで、消防の普通救命講習や上級救命講習では学ぶことのできない独自の技術指導が受けられるというのは大きなメリット。
また、日進月歩で進化する救急医療知識を救急救命士の目で捉え、最新の情報としてわかりやすく会社全体へフィードバックすることも可能です。
救急救命士一人では心肺停止や心筋梗塞、脳梗塞等の重度傷病者の命は救えません。
初期救護の技術を持った警備員を育て、1分1秒を争う緊急事態時はチームで連携して救命活動を行う。
これも警備員救急救命士に求められるスキルの1つです。
AED設置営業・感染防止対策アドバイス
一般市民のAED使用が認められたのが2004年7月。
そこから空港、駅、スポーツクラブ、学校、公共施設、企業等に急速にAED設置が広まりました。
警備会社ではAEDのリース・レンタル業務も行っています。
警備員救急救命士はAED設置営業のみならずお客様に対して様々な価値の提供が可能です。
また、感染防止の知識を活かし、施設の消毒やパーテーションの設置等の指導・助言も。
救急救命士というプロの目線でのアドバイスができることも会社に対する価値提供となります。

警備員救命士さんて自分の強みを活かして、いろんなお仕事をしているんだね!!

消防救命士のように高度な医療行為はしなくても、ちゃんと自分たちの強みを活かして会社やお客さんの役に立っている。
彼らの働き方は消防に就職できない救命士達に光を与えてくれると思うよ。


警備員救命士さんは僕たちの一番近くでいつも見守ってくれているんだね!
もっとお話を聞いてみたくなっちゃったよ!!

パパの友達の警備員救命士さんにインタビューしてみたよ。
彼は所属する警備会社で第一号の救命士なんだ!
先駆者としてのこれまでの努力や熱い想いを語ってもらったよ。
- なぜ警備員救命士という道を選んだの?
- 警備会社に入社して数年後、施設内で心肺停止になったお客様の対応をしたのですが知識やスキルが無く何もできなかった。
警備員は普通救命講習や上級救命講習を受講して救急対応を実施していますが、警備料金をいただいて業務している警備員のスキルが一般レベルで良いのだろうか?という疑問を持ちました。
そこで様々な方に相談し、救急救命士の存在を知って資格取得を目指すことにしました。
- 普段はどんな仕事をしているの?
- 一般の警備員と同じく施設内の巡回や警備室内で監視カメラの確認などをしています。
施設内で傷病者が発生すれば警備室に通報があるのでスタッフを集め救護に向かい、観察や問診を行って119番通報や医務室への搬送を行っています。
- メディカルコントロールは確立できているの?
- 会社方針としてお客様に対して特定行為のような高度な医療行為はリスクが高いため実施しません。
そのため、メディカルコントロールは運用しておらず、救命士の知識・スキルを活かして救護するにとどめています。
- 救命士の生涯教育に関して教えて?
- 病院実習や救急車同乗実習などには行けないので、自身で救急医療の学会に参加したり、地域の消防主催の勉強会などに積極的に出席して知識のアップデートに努めています。
警備員救命士にとって病院に搬送してくれる消防救急隊の活動を知ることはとても大切。
彼らにいかにスムーズに傷病者を引き継ぐかを意識して日頃から交流し連携を高めています。
- その他に救命士資格を活かして活動しているの?
- 地域の救護ボランティア団体で観光イベントやマラソン、花火大会のイベント救護を行っています。
長年の地域貢献活動が消防にも認められ、民間と消防の救命士の連携ができるようになりました。
またこの活動には救命士養成学校の学生達も参加しているので、救護の重要性や技術を指導しています。
- これから警備員救急救命士を目指す方々に一言お願いします。
- 私の考える救急救命士とは消防の救命士が一番上にいてそこから枝分かれしていくというイメージです。消防救命士と比べるとできる処置は少ないかもしれません。それでも頭を使えば資格を活かす方法はたくさんあります。
消防に入れなった、病院に就職できなかった、民間企業に採用されなかった。警備員救急救命士がそんな救命士達の受け皿になれればと考えています。

・警備員救急救命士は資格誕生時から活用が検討されていた。
・近年、救急救命士法を遵守した新しい働き方が注目されている。
・救急救命処置を行わなくても創意工夫で会社や社会に貢献する警備員救急救命士がいる。
警備員救急救命士についておわかりいただけたでしょうか?
警備員救急救命士は現場の一番近くで傷病者の初期救護を行い、消防救急隊へと命のバトンを渡す者。
彼らの初期対応や119番通報判断が傷病者の予後に影響を及ぼす重要な仕事です。
そのため、自身の知識・スキル維持だけではなく救護チームの育成も担う、まさに救命の連鎖の先導者です。
今後もニーズ抜群の警備員救急救命士の動向に大注目ですね!!

救急現場と消防救急隊を繋ぐ警備員救急救命士。
警備員救急救命士以外の資格の活かし方を知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

かなり踏み込んだ内容で、結構、難しい内容ですね。一般的な消防救命士には分からない世界かも知れませんね。勉強になりました。
コウさん
コメントありがとうございます。
おそらく消防救命士は警備会社に救急救命士がいること、これから増えていくであろうことを知らない方が多いですよね。
今後はプレホスも医療連携がスタンダードになるかも知れませんね。